10. (方川警視の死) [警察の組織犯罪]
10. (方川警視の死)
2002年7月31日、稲葉の元上司である「方川東城夫警視(56歳)」が自殺した。稲葉の逮捕から21日後である。
単身赴任先の釧路方面本部から監察官室の取調べを受けるため29日には札幌市南区の自宅に帰宅していた。上司といっても方川と稲葉の間には直属の上司が2人いる。
正確には方川は銃器対策課の指導官で階級的距離がある。
方川の死に関しては監察官室の取調べがポイントになっている。
方川を知る現役警察官の多くが「方川さんが死ななければいけないなら、方川さんより上の人も何人か死ななければいけない」と語っている。
誰に訊いても方川は気弱で部下には優しい人だったと口を揃えて言う。
札幌市南区の藻南公園の公衆便所の中で監察官室が理想とするかたちで死んでいた。
道警本部から動員された警察官が第一発見者である。「自殺する、と簡単に想像がつくような取調べをしていたということだ」と弔問に訪れた別の警察官が語っている。
そして方川の元同僚からの情報が入ってきた。
「初日(30日)の取調べの後、方川さんが道警本部のある課の前を通ったところ、そこの課長が方川さんをつかまえて『お前なんか死んでしまえ!』と罵声を浴びせた。誰もが方川さんより上の連中に責任があると知っていたから、どうしてそんなことを本人に敢えて言うのか理解できなかった。怒鳴ってたのは稲葉と関係が深い奴だった。」「初日の取調べ後に帰宅して家の中で自殺未遂をした。奥さんが発見して一命を取り留めたそうだ。
奥さんが心配して監察官室の室長に事情を電話で伝えた。それで監察が翌朝(31日)、迎えの車を方川さんの家に出すことになっていたのだがなぜか車がこなかった。それで方川さんはバスに乗って本部に向かい、その途中で降りあの藻南公園である。迎えの車を故意に出さなかったのか、連絡ミスなのかは不明である。」
未然に防げるはずの自殺を敢えて防がなかった。自殺することを知っていての不作為である。
稲葉の上司や道警幹部の中で方川一人に道警の闇を背負わせるために、組織の意思が明確に方川を死に導いたといえる。
『監察官室が取り調べるべきは道警本部の歴代の銃器対策課長や暴力団対策課長である』と著者は述べている。
当時の現役警察官は語っている。「マスコミは歴代の銃器対策課長を徹底的に取材して奴らに辞表を書かせなければいけない。銃対の指導官が全ての権限を持っているような誤解があるが、実際には大きな銃器摘発事件(石狩湾新港での泳がせ捜査?)の場合には本部長まで情報は上がっている。方川さんは辞表を書かなくて済んでいる奴らに殺されたんだ」
1997年2月に3人組の男により札幌市豊平区の暴力団組長の自宅から現金6000万円が入った金庫が強奪され、留守番の組員が拳銃で殴られた強盗致傷事件があった。
主犯格を稲葉が逮捕したのだが、この男の供述から「稲葉が事前にこの強盗計画を知っていた」というものだった。また「拳銃の押収に繋がらないので強盗の後に車の中に何者かにより拳銃が置かれていた」という供述もあった。
警察官が強盗計画を知っていながら未然に防ごうとせず、拳銃を実行犯の車の中に仕込み拳銃所持事件として逮捕し、強盗致傷を余罪として立件しようという魂胆である。
車に拳銃を仕込んだのは渡辺で稲葉は強盗の幇助をし、拳銃押収の成績を優先したといわれていた。
稲葉は近著「恥さらし」の中でこの事件の関与について強く否定している。犯人逮捕の際車で150メートルも引きずられ命の危険もあったと証言している。しかし「天地神明」に誓ってというフレーズは朝青龍などの八百長力士たちがよく使っていた言葉でもある。
嘘や誇張、デマや大げさなでっち上げがよくあることは私もわかっているし、一度レッテルを貼られてしまうとやることなす事、あることない事全てをおしつけられ、一度の失敗や不正ですべてを不利な方向に決めつけられ、でっち上げられる。いくら真実を説明しようとしても理解されない、自分の力ではどうしようもないその理不尽な苦しさや、怒りも十分に私は理解できる。
報道された当時は、事件の裏事情など知る由もないが、暴力団組長の自宅に強盗に押し入るという怖いもの知らずの奇妙な事件とは思っていた。稲葉事件は知らなくてもこの事件を知っている道民は多いだろう。
結局複数のタレ込みによって稲葉は監察官室の取調べを受けることになるのだが、いとも簡単にかわしてしまう。具体的な疑惑があり逮捕者の供述もあったというのに生き延びている。著者は稲葉が強大な影の力にによって守られていたと推察している。
拳銃押収実績の高い稲葉を庇う道警幹部が複数存在したということである。
この事件では当時稲葉を告発した暴力団組員が拘置所で謎の死をとげているのだが、死因や詳しい経緯は明らかにされていない。「渡辺司の死」の5年前の事である。
監察官室の取調べは非常に厳しく「お前がぶら下がれば組織が守られる」ということを平然と言う。
誰かが自殺してくれれば、それで一件落着にできる。全ての責任を抱えて死んだというのが一番わかりやすい決着の仕方というわけだ。
ある道警OBによると監察官室が警察に存在する理由は、警官の不祥事や悪事を正すためではない。どうやったら世間が納得してくれるか、どうやったら事件の印象を小さいものにできるかという組織防衛のためにあるのである。
稲葉は組織防衛のため監察官室の取調べを免れ、方川警視は組織防衛のため監察官室の取調べで死を誘導されたのである。
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